コラム
製造業の業務プロセスを変革する最新技術をテーマにした連載コラム
第1回:
デジタルツインとは?
メリットと製造業における重要性を分かりやすく解説
デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実世界から収集したデータを元に、現実世界と双子のようにそっくりな世界を仮想空間上に再現するテクノロジーです。製造業をはじめさまざまな業界で注目を集めるデジタルツインに関する幅広い情報を連載コラムでお伝えします。
第1回となる今回は、デジタルツインとは?をテーマに、そのメリットと製造業における重要性を分かりやすく解説します。
デジタルツインとは?
デジタルツインとは、現実世界から収集したデータを元に、現実世界と双子(ツイン)のようにそっくりな世界を仮想空間(デジタル)上に再現するテクノロジーです。まさに「デジタルの双子」です。デジタルに存在するわけですから、例えばパソコンやスマートフォン、VRゴーグルを通して、あらゆる人があらゆる場所から同じデジタルツインにアクセスすることができます。
デジタルツインに通じる概念は従来から存在しますが、テクノロジーの進歩によって、近年になり本格的なビジネスの場での活用が始まりました。デジタルツインを構築するためには、まず膨大なデータをリアルタイムに収集したうえで、現実と同じ(あるいは非常に近い)精度で表現しなければなりません。IoTや5G、GPUといったテクノロジーが進化することにより、従来は困難だった、まさに今のこの世界を双子のように再現できるようになってきたのです。
その期待は市場規模にも大きく表れています。2023年7月にMarketsandMarketsが発行した「デジタルツインの世界市場:用途別(予知保全、業務最適化、性能監視、在庫管理)、業界別(自動車・輸送、ヘルスケア、エネルギー・公益事業)、企業別、地域別-2028年までの予測」(取扱:株式会社グローバルインフォメーション)によると、デジタルツインの世界の市場規模は、2023年の101億米ドルから2028年には1,101億米ドルにCAGR61.3%で成長すると予測されています。
デジタルツインによる5つのメリット
デジタルツインのために収集されたデータは、今現在の仮想空間を構築するだけでなく、AIによる分析やシミュレーションによって、未来の仮想空間も創造します。そして分析・シミュレーションした結果を現実世界にフィードバックすることで、より良い未来が実現できます。
ここでは具体的に、製造業におけるメリットを5つご紹介します。
1.コスト削減
仮想空間上であらゆるトライアンドエラーができるため、製品の開発フェーズでは、従来実物で行っていた試作と実験の繰り返しが格段に少なくなり、コストが削減できます。生産準備フェーズでは、設備のTry&Errorを行うことで、やり直しの無い垂直立ち上げに寄与します。また製造フェーズでは、リアルタイムに人・物の稼働状況や位置を把握することで、より効率の良い製造プロセスを検討でき、人員コストを最適化できます。
2.品質向上
現実世界では時間やコスト、危険性などの面から限界のあった試作やシミュレーションが仮想空間では何度も繰り返し行えるため、品質向上に繋がります。
3.予知保全
従来、設備故障や製品不良といったトラブルが発生すると、現場に行って調査し、原因究明をする必要がありました。しかしデジタルツインではリアルタイムに情報を収集しているため、現時点の状態を把握し、素早く対応することができます。また、過去のデータをAIで学習することで、将来の故障を予測することも可能です。
4.安全性・快適性の向上
工場などの作業現場によっては、危険が多く快適でない、いわゆる「3K」と呼ばれる職場も存在します。作業者が危険を回避し快適に作業できるような導線・レイアウトなどの環境をデジタルツイン上でシミュレーションしたり、事故防止のトレーニングを行ったりすることで、安全性・快適性を追求できます。
5.遠隔地を結ぶコミュニケーション・コラボレーション
冒頭で述べたように、デジタルツインはどんな場所からでもアクセスできます。遠く離れた拠点の関係者が同時に同じ3D製品モデルを見ながら改善検討を行う、いわゆるデザインレビューや、作業監督・トレーニング指導をリモートで行うことができます。
製造業においてデジタルツインが注目される理由
製造業では、グローバル競争や社会変化に素早く対応すべく、より良い製品をいち早く市場に提供することが求められます。一方、日本で問題となっている労働人口の減少や材料価格の高騰。そんな中、リアルタイム性と精度の高いデジタルツインの活用によって業務プロセスを変革し、上で述べたようなメリットが得られると期待されているのです。
まとめ
現実世界は1つしかありません。しかしデジタルツインにはあらゆる世界とそこから予測される何パターンもの未来が存在するため、デジタルツインの可能性は大きく、今後ますます活用の幅が広がっていくことでしょう。
次回以降のコラムでは、デジタルツインの具体的な活用事例や、デジタルツインを支える最新技術などについてご紹介していく予定です。