コラム
製造業の業務プロセスを変革する最新技術をテーマにした連載コラム
第4回:
画像処理技術とAIでデジタルツインを支えるNVIDIA GPU
デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実世界から収集したデータを元に、現実世界と双子のようにそっくりな世界を仮想空間上に再現するテクノロジーです。これまでのデジタルツイン連載コラムでは、デジタルツインの概念やメリット、デジタルツイン最新事例に加え、必要となる要素技術を解説してきました。
過去のコラムはこちら>
第1回:デジタルツインとは?メリットと製造業における重要性を分かりやすく解説
第2回:【2023年版】製造業におけるデジタルツインの最新事例3選
第3回:デジタルツインを支えるテクノロジーとは?種類と概要を徹底解説
第4回となる今回のテーマは、デジタルツインの実現に必要なテクノロジーの1つに挙げられる「GPU」です。GPUの概要とメリットおよびデジタルツインとの関係性を解説し、この分野のリーディングカンパニーであるNVIDIA Corporation(以降NVIDIA社)のソリューションを分かりやすくご紹介します。
<目次>
NVIDIA社について
NVIDIA社とは、アメリカ カリフォルニア州に本社を置く半導体メーカーで、1993年に現CEOのJensen Huangらによって設立されました。1999年に「世界初のGPU」として「GeForce 256」を発表して以来、現在も世界のGPU市場で圧倒的なシェアを誇っていることで知られています。
GPUはGraphics Processing Unitの略で、その名の通り画像描写に特化した半導体として、当時は主にゲームやメディア市場における高度な3D描画向けに使用されていました。そんな中、2006年にNVIDIA社が「CUDA(Compute Unified Device Architecture:クーダ)」と呼ばれるGPGPU(General Purpose GPU:汎用GPU)を開発したことにより、画像描画以外の、いわゆるAIなどの用途でもGPUの効果が出せるようになり、今やNVIDIA社のGPUは高度な画像処理とAI開発において欠かせないものとなっています。
その後もNVIDIA社は、GPUを搭載したAIサーバやvGPU(仮想GPU)などのソリューションをはじめ、近年バズワードとなり注目が集まるメタバースに関連して、メタバースを構築するプラットフォーム「NVIDIA Omniverse(※)」など、GPUをベースにしたさまざまな新技術を開発しています。まさに、GPUやAI分野のリーディングカンパニーと言えるでしょう。
※Omniverseについては下記のセミナーアフターレポートで詳しくご紹介しています
GPUとは
先述の通りGPUとは、もとは画像処理に特化したプロセッサーで、大規模な並列計算処理を得意としています。GPUが開発される以前はCPUが全ての計算処理を担っていましたが、映像技術の発展により画像処理の負荷が増したため、画像処理を専門で担うGPUも併用されるようになりました。CPUとGPUの大きな違いはコア数です。コアとは計算機能を担う中核部分を指し、通常CPUには数個、GPUには数千個のコアが備わっています。GPUはこの圧倒的なコア数を武器に、人海戦術的に並列計算処理を高速で行うことができます。
この違いを分かりやすく説明するためによく例えられるのが、百マス計算です。CPUは一人の天才、GPUは100人の小学生がチームとなり、1つの百マス計算をよーいどんで解いてもらいます。GPUは1人1マスのみ解けばよいので、小学生とはいえ1つ1つが簡単な計算であれば、CPUよりも圧倒的に早く計算を終えることができます。
百マス計算を解くCPUとGPU
画像は膨大なポリゴンの集まりで、どの座標に何色を表示するべきかを同時に処理する必要があり、動画となるとその同時計算が瞬時に繰り返されなければいけません。先の例では、ポリゴンの数が百マス計算の1マスにあたり、そして1人対100人という人数がコア数の差を指します。GPUは膨大なポリゴンを同じく膨大なコアで同時に処理することで、リアルタイムかつ高度な画像描画を可能にしています。
GPUのメリットとAIおよびデジタルツインとの関係
続いては、なぜGPUがAI開発にも活用されているのかについてお話しします。それは、画像処理に特化していたGPUを汎用化したGPGPUという技術が関係しています。
GPGPUはGPUの特性を利用し、画像処理に似たような、膨大なデータの並列計算を高速化することができます。具体的には、科学技術分野の数値計算やシミュレーション、仮想通貨のマイニング、そして機械学習やディープラーニングといったAI分野が挙げられます。
ディープラーニングのモデル構築イメージ
例えばディープラーニングで猫の判別モデルを作るとします。そのためにまずは膨大な猫の画像を学習し、そこから猫ならではのポイント(特徴量)を自動で導出し、正誤判定をもとにモデルを修正して、回答率を上げていきます。私達の目にはもちろん猫に見える画像も、コンピューターは全て数値に変換して処理しています。その数値の中でどこが猫の判断ポイントになるのかという重みづけももちろん数値で行うため、データがどんどん膨れ上がっていきます。
ディープラーニングにおいてGPGPUはその特徴を生かし、CPUと比較して数倍~場合によっては数百倍もの速度で計算することができます。また、それだけ多くの計算が可能になるため精度も向上し、先の例でいうと、より正答率の高い猫の判別モデルを作ることができるのです。
前回のコラムで述べた通り、デジタルツインにはAIが欠かせません。現実世界から取得したデータを適切に処理し、デジタルツインに反映し、さらに予測を繰り返す、この一連のAI処理を高精度かつ高速に行うためには、GPUが必要不可欠と言えます。また、AIという文脈以外でも、GPU本来の特徴である高度な画像処理能力がデジタルツインには求められます。というのも、デジタルツインでさまざまなシミュレーションを行うには、現実世界をいかに高精度に再現するかがポイントだからです。例えば、せっかく工場のデジタルツインを作成しても画像が荒かったり表示速度が遅くて動きがカクカクしていたりすると、全く参考になりませんよね。現実と見分けがつかないほどリアルなデジタルツインをリアルタイムに表現するためにもGPUは非常に重要なのです。
このようにAIおよびデジタルツインの質はGPUの性能が大きく影響するため、GPUを活用することはもちろん、どんなGPU(およびGPU搭載サーバ)を導入するかをしっかりと検討することをおすすめします。
<参考>
解析シミュレーションでもGPUが大活躍!
様々な物理現象をデジタルで再現する解析シミュレーション。その中でも気体や液体の挙動を対象にした流体解析は非常に計算負荷が高く、場合によっては数週間もの計算時間がかかります。Ansys社の汎用熱流体解析ソフトウェア「Ansys Fluent」では、CPUに加えGPUも併用し、またそのコア数を増やすことによって、解析時間を短縮できます。下記の図の例では、CPUのみ(青色)とCPU+GPU(緑色)とを比較すると、GPUを併用したほうが、最大約4倍も計算時間を高速化できていることが分かります。
NVIDIA社のGPUソリューション
これまで、GPU(GPGPU)の概要とデジタルツインにおける重要性をお伝えしてきました。この章ではより具体的に、NVIDIA社が提供するGPUソリューションについてご紹介します。
NVIDIA H100 Tensor コア GPU
NVIDIA H100 Tensor コア GPUとは、AIおよびHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)向けに開発された、NVIDIA社にとって9世代目となる高性能なGPUです。世代を重ねるごとにGPU自体の処理性能が向上しているだけでなく、既述のCUDA(GPGPU向けプラットフォーム)も改良されたモデルを組み込んでいます。そのため前世代のA100と比較して、AIの計算処理を最大30倍も高速化しています。
スペックなどの詳細はこちら>NVIDIA AI対応GPU | NVIDIA GPU Solution | SCSK株式会社
NVIDIA DGX H100
NVIDIA DGXシリーズは、AIおよびHPCに特化したアプライアンスサーバです。中でもNVIDIA DGX H100は、先述のNVIDIA H100 Tensor コア GPUを8つも搭載しているほか、NVIDIA AI Enterprise(「TensorFlow」や「PyTorch」などの機械学習フレームワークを盛り込んだソフトウェア)も組み込まれています。必要なハードウェアおよびソフトウェアの両方を1つのプラットフォームとして導入できるため、効率よくAI開発を進めることが可能です。
スペックなどの詳細はこちら>
<参考>
最新!NVIDIA H200 Tensor コア GPU と NVIDIA HGX H200
2023年11月13日、NVIDIA社は同社最新のGPUおよびGPU搭載サーバとして、それぞれNVIDIA H200 Tensor コア GPUとNVIDIA HGX H200を発表しました。帯域幅4.8TB/sかつ容量141GBと超高速大容量な「HBM3e」メモリーを世界で初めて搭載しており、H100比でAI推論およびHPCコンピューティングを約1.7倍前後に高速化できます。実際の提供開始時期は2024年第二四半期(5~7月)になる見込みで、AI開発をさらに加速することが期待されます。
まとめ
このように、GPUは高度な画像処理性能とAI開発との親和性から、高精度なデジタルツインを構築するために欠かせないテクノロジーです。NVIDIA社はGPUの先駆者でありまた今日においてもリーディングカンパニーとして市場を牽引しており、次々と新しいソリューションを打ち出しています。同社が現在提供しているH100シリーズに加え、来年2024年に販売予定のH200にも目が離せません。
ここでは紹介しきれなかったNVIDIA社のGPUソリューションの詳細情報は、下記の製品サイトに掲載していますので、是非ご覧ください。
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第1回:デジタルツインとは?メリットと製造業における重要性を分かりやすく解説